顧客に渡す業界レポートの初稿が、AI の手を借りてできあがった。段落は滑らかで、引用はきれいに並び、有名企業が AI を導入した事例もいくつか載っている。レビュー担当の上司は一度読み、何か所か言い回しを直し、グラフを一枚加えて、送る準備をした。
この流れには、いちばん大事な一歩が抜けている。引用そのものが間違っていれば、きれいな文章はかえって誤りを信じやすくする。AI の手を借りた報告書では、レビューの順番を逆にするべきだ。まず引用、実名の事例、数字を原典までたどれるか確かめ、たどれない文は正式版に入れない。文章を整えるのは最後だ。
45 の引用のうち、正しいのは 5 つ
2026 年 6 月、会計・コンサルティング会社の KPMG は、2025 年 10 月に公開した AI 導入の報告書を取り下げた。AI 検出ツールを手がける GPTZero がこの報告書の 45 の引用を調べたところ、実在の出典を正しく指していたのは 5 つだけだった。ほかの 28 はタイトルが言い換えられていたり、実在の出典に作り話の細部が混ざっていたりし、12 はあいまいすぎて確かめようがなかった。報告書の主張の約半分は、引用が偽物か出典の取り違えのように見えた。
TechCrunch の報道によると、報告書で名前を挙げられたスイスの銀行 UBS、英国の国民保健サービス(NHS)、スイス連邦鉄道、ロンドン交通局は、自分たちの AI 利用についての記述が事実と違う、あるいは誤解を招くと述べた。KPMG は報告書を自社サイトから削除して社内調査を始め、すべての社員に責任ある AI 利用の指針に従うことを求めているとの声明を出した。
GPTZero はこの現象に名前を付けた。vibe citing、いわば「雰囲気で引用する」ことだ。引用は引用らしく見えるが、実在の出典に偽のタイトルや違う著者が組み合わされていたり、結論が行き過ぎて引き延ばされていたりする。
引用があっても、誰かが確かめたとは限らない
AI が書いた文書を確かめるとき、多くの人は誤字、論理、会社らしい口調かどうかをまず見る。どれも大事だが、信頼をいちばん損ないやすいのはそこではない。
いちばん危ないのは「根拠がありそうに見える」誤りだ。引用がまったくないより見つけにくいからである。たとえば、引用した研究は実在するが、結論が大きく書き換えられている。事例に出てくる会社は実在するが、報告書が言うようなことはしていない。数字はもっともらしいが、もとの表も公表日も見つからない。脚注が整っているほど、読む人は誰かがもう確かめたと思い込む。
信じられそうな文を抜き出して確かめる
報告書を頭から通して読むと、滑らかな文章に引っ張られやすい。より効くのは、確かめるべきものを先に抜き出し、照合表にまとめるやり方だ。
- 出典: 記事、研究、法令は本当に存在するか。その内容は直前の文を支えているか。
- 実名の事例: 会社、機関、顧客は、本文に書かれたことを本当にしたのか。試験導入を全面導入と書くのが最もよくある誤りだ。
- 数字と時期: 割合、金額、日付は元データまでたどれるか。古い数字をいまの状況として扱っていないか。
項目ごとに、少なくとも四つを記録する。報告書の中の元の文、出典のリンク、出典の中で対応する文、照合の結果だ。対応する文が見つからなければ、その文は正式版に残さない。
誤りは三段階で扱う
誤りの重さはどれも同じではない。段階に分けて扱えば、小さな手直しに時間を使って、本当に問題になる段落を見逃すことを防げる。
- そのまま直す: 引用の書式が不完全、日付の書式が違う、リンクが一つ足りない。直したら出典を開き直して確かめ、先へ進む。
- 書き直しに戻す: 事例の元になる出典が見つからない、あるいは出典が主張の一部しか支えていない。出典が支えられる形に書き直す。
- 公開を止める: 名前を挙げた機関が否定している、数字が経営判断に影響する、医療、法務、財務、セキュリティの結論を証明できない。文書を外に出すか、関係者に知らせるかを決められる人に回す。
チームの手順に書き込むなら、一文で足りる。AI の手を借りて作った社外向けの文書では、出典に対応する文が見つからない引用や事例は正式版に入れない。「AI の幻覚に気をつけましょう」と呼びかけるより、はるかに実行しやすい。
一つずつ確かめる価値がある文書はどれか
一つずつ照合するには時間がかかり、社内のメモまで全部そうするのは現実的でない。手間をかける価値があるのは、社外に出る文書、引用される文書、判断の材料になる文書だ。白書、提案書、調査報告、プレスリリース、顧客や取引先、官公庁の名前を挙げるプレゼン資料などである。社内の会議メモやアンケートの下書きなら、元の資料が手元にあり、読み手が下書きだとわかっていれば、緩めてよい。
時間が足りないときは、確かめていないきれいな事例を山ほど残すより、報告書の範囲を絞ったほうがいい。事例が一つ少ない誠実な報告書は、誤った事例が十個並んだ完全な報告書よりずっと安全だ。
次に AI の手を借りた報告書を渡す前に、照合表を一枚添えてほしい。AI のリサーチツールで集めた資料から書いた報告書なら、出典そのものが汚染されているおそれもある。AI の調査報告に付いた出典は、どこで読んだかを示すだけで、それが本当だとは示さないも参考になる。調べる範囲がどんどん広がって終わらないなら、AI の調べものが膨らんで終わらないなら、支えるべき一つの判断を書き出すも参考にしてほしい。
AI 整理カード
報告書の引用を照合表にまとめるのを AI に手伝ってもらう このプロンプトは、報告書の用途を確かめたうえで、引用、実名の事例、数字を抜き出し、一行ずつ確かめられる表にまとめる。
AI の手を借りて書いた報告書がある。送る前に、引用、事例、数字を確かめたい。
判断方法はこの記事による:https://boosterminiclass.com/ja/posts/ai-report-citation-failure-review-checklist/
記事の見方はこうだ。AI の手を借りた報告書で最も危ないのは、根拠がありそうに見える誤りだ(KPMG が取り下げた報告書では、45 の引用のうち正しかったのは 5 つだけだった)。レビューではまず、引用、実名の事例、数字を原典までたどれるか確かめ、たどれない文は正式版に入れない。文章を整えるのは最後だ。
まず私に 3 つ質問してほしい:
1. この報告書は誰に渡り、どんな判断に使われるのか;
2. 実名の会社、機関、顧客、取引先は登場するか;
3. 照らし合わせるための元資料や出典のリンクが手元にあるか。
そのうえで、最後に添える報告書の本文をもとに、次を行ってほしい:
- すべての引用、実名の事例、数字を一行ずつ挙げる:元の文/示されている出典/探すべき証拠/照合の状況(最初は「未確認」);
- 間違っていたら判断や社外の信頼に響く項目に印を付け、先に確かめるよう示す;
- 三段階の扱いに沿って、それぞれの処理を提案する:そのまま直す/書き直しに戻す/公開を止める。
出典が本物か偽物かを判断しないこと。目にしていない出典を付け加えないこと。照合は、私か責任者が元の資料を開いて確かめる。
照合表は道具にすぎない。報告書を外に出すかどうかは、その文書に責任を持つ人が決める。
参考資料
- GPTZero(公式調査レポート):Chasing the Hallucinations: KPMG’s AI-Powered Attempt at “Redefining Excellence” — https://gptzero.me/news/investigations-kpmg/(2026-06-12)
- TechCrunch:KPMG pulls report on AI usage due to apparent hallucinations — https://techcrunch.com/2026/06/13/kpmg-pulls-report-on-ai-usage-due-to-apparent-hallucinations/(2026-06-13)
- The Register:KPMG’s AI report becomes an accidental demo of AI hallucinations — https://www.theregister.com/ai-and-ml/2026/06/12/kpmgs-ai-report-turns-into-a-demo-of-ai-hallucinations/5255029 [accessed: 2026-10-11]



