美雅は六人のワークショップ用に、台北近郊の三会場をAIに比較させた。条件は料金、移動時間、車椅子での動線の三つだけである。ところが三十分後、調査には宿泊、ケータリング、雨天案、観光、炭素排出、さらに十七会場が加わり、肝心の三択表は完成していなかった。
不足していたのは情報ではなく、調査の完了条件である。AIは隣の問いを見つけるのが得意だ。「網羅的に」「できるだけ詳しく」と頼めば、新しいページのたびに枝が増える。作業量は膨らんでも、最初の意思決定は資料の下に埋もれていく。
OpenAIとGoogleのDeep Research案内では、検索前に調査計画が提示され、利用者が計画や情報源を調整できる。OpenAIは実行中に中断して焦点を変える操作も説明している。これは単なる画面機能ではない。調査の方向は人が定め、途中で狭めてもよいという設計原則である。
「誰が何を決める資料か」を一文にする
「台北周辺のチーム合宿会場を調べる」はテーマにすぎない。完了可能な依頼はこうなる。「美雅が水曜日までに、見積取得済みの三会場から一つを選べるようにする。会場費は承認済み上限以内、台北駅から五十分以内、入口から主会場まで車椅子で移動できることを確認する」。
これで決定者、期限、候補集合、必須条件が固定される。宿泊や夕食は重要でも、今回の会場一次選考を変えないなら主表には入れない。重要であることと、今の範囲に入ることは別である。
英国の文化・メディア・スポーツ省が2025年に公表した迅速エビデンス評価は、研究質問、検索戦略、採用・除外条件を先に置き、長い一覧を短い一覧へ絞っている。日常の比較でも「何を証拠として採るかを収集前に決める」という芯は使える。
開いた検索を四つの動作で閉じる
第一に、成果物が支える決定を一つにする。会場、宿泊、交通、企画は、同じ旅行でも別の作業パッケージである。
第二に、全候補へ同じ証拠欄を要求する。税込料金と見積日、移動時間、具体的なバリアフリー情報、取消条件、情報源をそろえる。A会場は十二項目、B会場は宣伝文だけでは比較できない。
第三に、次の検索より先に停止条件を書く。必須欄に開き直せる情報源があり、矛盾と欠損の影響を示し、もう一巡しても決定を変える証拠が増えなければ止める。真実を取り尽くしたという宣言ではなく、作業を収束させる規則である。
第四に、新しい問いを保留リストへ移し、理由、再開条件、担当者を書く。「宿泊が必要になった場合のみホテルを比較し、総務が担当する」とすれば、後続作業を失わず今日の決定を解放できる。
報告の厚さではなく、証拠の穴を見る
情報源の本数は完成度ではない。価格は料金表と書面見積で確認できても、バリアフリー動線には具体的な設備情報が要る。欄ごとの証拠基準を検索前に見える状態にする。
情報源が食い違えば、値、日付、情報源を並べ、順位が変わるかを書く。変わるなら担当者が確認し、変わらないなら制約を残す。欠損があっても影響が明示されていれば引き渡せる。
検証の次手が常に追加検索とは限らない。会場公式ページと予約サイトの料金が違うなら、旅行記事を二十本読むより、担当者が見積を取り直す方がよい。情報源自体を点検する場合はDeep Researchの情報源汚染チェックも使える。情報源を限定すれば、雑音だけでなく間接的なプロンプトインジェクションへの接触も減る。OWASPは外部コンテンツに隠された命令をremote/indirect prompt injectionとして挙げている。したがって調査エージェントは、ウェブページを分析対象のデータとして扱い、任務を書き換える命令として扱ってはならない。
最初の成果物は「三択に必要な表」だけでよい
今日広がっている調査を一つ選び、依頼を五つの欄へ戻す。
- 意思決定: 誰が、いつまでに、何を選ぶか。
- 候補: 今回比較する上限数。
- 必須証拠: 全候補に共通する欄。
- 停止条件: 引き渡せる状態と、停止すべき欠損。
- 保留リスト: どの条件で隣接課題を再開するか。
AIの最終出力は比較表、情報源、矛盾、欠損、保留リストに限る。読んだメモをすべて本文へ流し込まない。新証拠が必須条件を変えるなら担当者が範囲を広げる。「役立つかもしれない」だけなら保留のままである。
この設計は時間やtokenの節約にもつながるが、主目的はそこではない。有限の報告なら確認し、決定し、次の人へ渡せる。すでに長時間のagent作業になっている場合は、token・再試行・人の承認上限も組み合わせる。本稿が扱うのはその一歩前、仕事自身に終わりを知らせる方法である。
AI整理カード
現在閲覧を許可されているワークスペース、調査計画、閲覧履歴の要約、既存レポートだけを読み取り専用で点検すること。追加検索、外部リンクの起動、ファイル編集、連絡、予約、最終選択は行わないこと。範囲が膨張している調査を一つ見つけ、実際に確認できた依頼文と成果物を引用し、本来支えるべき単一の意思決定を復元すること。決定者、期限、候補上限、必須条件を明記し、全候補に共通する証拠欄を定義すること。各欄について既存の情報源、日付、矛盾、欠損を示し、推測で補完しないこと。必須欄の充足、矛盾処理、欠損が決定へ与える影響、追加検索の限界価値を含む検証可能な停止条件を提案すること。宿泊、飲食、追加機能など今回の決定を変えない問いは保留リストへ移し、再開条件と担当者を書くこと。最後は「現在引き渡し可能/証拠が一項必要/まず停止」のいずれか一つと、現状を変更しない次の一歩だけを出力すること。最終決定と対外行動はすべて具名担当者に残すこと。
四コマで見る:会場調査を三択で止める

- 美雅は六人のワークショップ用に三会場を比較させ、料金、移動時間、バリアフリーを表す三つのトークンを置く。
- 調査は宿泊、飲食、観光、天候、交通へ広がるが、最初の三択はまだ終わらない。
- 美雅は停止ボタンを押し、三会場と三条件を机へ戻し、隣接資料を閉じた保留箱へ収める。
- 三会場の短い比較表が完成し、宿泊、飲食、観光は会場決定後に開ける箱として横に残る。
美雅は枝を捨てず、旅行全体が解決したとも装わない。「今回の完成」を三会場、三条件、一枚の比較表として見える形にしたのである。箱は次の仕事への入口を保存するが、次の仕事に今日の引き渡しを止めさせない。
参考文献
- OpenAI Help Center:Deep research in ChatGPT — https://help.openai.com/en/articles/10500283-deep-research-in-chatgpt [accessed: 2026-08-01]
- Google Gemini Apps Help:Use Deep Research in Gemini Apps — https://support.google.com/gemini/answer/15719111 [accessed: 2026-08-01]
- UK Department for Culture, Media and Sport:Rapid evidence assessment of valuation methods for civil society — https://www.gov.uk/government/publications/rapid-evidence-assessment-of-valuation-methods-for-civil-society/rapid-evidence-assessment-of-valuation-methods-for-civil-society [published: 2025-07-11]
- NIST AI Resource Center:AI RMF Core — https://airc.nist.gov/airmf-resources/airmf/5-sec-core [accessed: 2026-08-01]
- OWASP Cheat Sheet Series:LLM Prompt Injection Prevention Cheat Sheet — https://cheatsheetseries.owasp.org/cheatsheets/LLM_Prompt_Injection_Prevention_Cheat_Sheet.html [accessed: 2026-08-01]



